加齢にともない、物忘れが増えてくる可能性があります。
なぜ物忘れが増えるのでしょうか?
物忘れの原因と予防、また認知症との区別についてご紹介します。
目次
脳ってどんな働きがあるの?
私たちは脳の働きにより言葉を話したり、喜怒哀楽を感じることができます。
また脳の働きにより経験したことから学び、記憶することもできます。
さらに脳は人間が生きていくための重要な働きも司っています。
例えば私たちが意識せずとも心臓を動かしてくれているのは脳の働き、無意識に呼吸ができるのも、脳が正常に働いてくれているからなのです。
脳には神経細胞がたくさんあり、これらが電気信号のやりとりを行うことにより情報が伝達されています。
この働きにより脳は、生命を維持する働きから、人間として知的に生きていくための働きに及ぶまで多様な活動を行うことができるのです。
物忘れは何故起こるの?
最近は「認知症」という言葉も広く浸透してきました。
年を重ねると、若い時よりも物が覚えられない、覚えたことをすぐ忘れてしまうなどを経験することが増えてくるかもしれません。
物忘れが頻繁に起こると、認知症になってしまったと心配になる方も多いようですが、物忘れ=認知症ではありません。
加齢によっても正常な脳の老化現象として物忘れが起こることもあります。
これは誰しもが年を重ねると経験することですので、心配する必要はなく、ある程度予防することもできます。
また加齢によるもの以外にも、生活習慣によっては若くても物忘れが起こることもありますし、認知症以外の疾患が隠れている場合もあります。
では物忘れが起こるにはどんな原因があるのでしょうか。
項目別にみていきましょう。
加齢
物忘れの多くは加齢によるものだといわれています。脳の細胞は20代をピークに減少していきます。それにともない記憶力が衰えてしまいます。そして年齢を重ねていくうちに、次第に物忘れが起きやすくなります。
ストレス
一般的にストレスを感じているときは、物忘れをしやすくなると言われています。
脳がストレス下にさらされると、集中力が落ちてしまいます。
目の前で起きていることを認識する他に、余分な電気信号が介入してしまい、脳の海馬で、記憶がきちんと作られなくなってしまうのです。
よく緊張すると「頭が真っ白になる」と言いますが、この環境が長く続くと、うつ病から認知症へと移行してしまう可能性もあります。
睡眠不足
人は寝ているときに肉体の疲れや脳の細胞の疲れを回復させます。
睡眠が足りていないと、肉体の疲れが回復しないことはもちろん、脳の細胞修復もできず、記憶の整理や定着も十分にできなくなってしまいます。
記憶を司る海馬はとてもデリケートな部分です。
強い刺激やストレスがかかると、すぐにダメージを受けて細胞が死んでしまいます。
これに睡眠不足が加わると、細胞が修復されない状態が続きますので、結果的には脳の働きが低下します。
若年性健忘症
20代〜30代の若い世代に見られる物忘れや記憶障害を言います。
原因はスマホやパソコンなどで、漢字の変換ができるので漢字を覚えない、電話番号も記憶する必要がないなど、記憶しようとしない生活習慣によります。
または強いストレス、頭部に外傷を負ったなどが原因になることもあります。
検査をしても脳に異常は認められません。
薬によるもの
睡眠薬、精神安定剤、抗不安薬による副作用で物忘れが起きやすくなります。
うつ病によるもの
うつ病になると、物事を考えて判断する力、記憶する力が弱くなり、物忘れにつながります。
甲状腺の病気
甲状腺は脳の働きに必要なホルモンを分泌する働きがあります。
甲状腺の機能が低下すると、ホルモンの分泌も減少するため物忘れが起きやすくなります。
認知症
<アルツハイマー型認知症>
脳が萎縮し、脳細胞が急激に減少することにより起こります。
徘徊、過食、睡眠障害、暴力などの異常行動が出てきます。
初期の段階で治療することで、進行を遅らせることができます。
男性より女性に多い認知症です。
<脳血管型認知症>
脳の動脈硬化、脳出血、記憶を司る場所に脳梗塞ができるなど脳の疾患で起こる認知症です。
<レビー小帯型認知症>
レビー正体とは、神経細胞にできる特殊なタンパク質です。
レビー小帯ができている部分では神経伝達がうまく伝わらなくなり、認知症の症状や幻視、パーキンソン症状が出てきます。
アルツハイマー型認知症が女性に多いのに対し、レビー小帯型認知症は男性に多く、女性の約2倍の発症率と言われています。
<若年性認知症>
18歳〜64歳に発症した認知症を言います。
この中で前頭側頭型認知症と呼ばれるものは、前頭葉と側頭葉が萎縮して起こる疾患で、若い人にも発症します。
老化による物忘れと認知症の違いは?
物忘れ=認知症ではないことがわかりました。
老化による物忘れは心配することはありませんが、もし認知症であれば、早期発見、早期治療が効果的です。
では老化による物忘れと認知症の違いはどこにあるのでしょうか?
その違いは「忘れたという認識があるかないか」なのです。
例えば、誰かに「今朝は何を食べたの?」と聞かれたとします。このときに、食べたことは覚えているけれど、何を食べたかがなかなか思い出せないのが、老化による物忘れです。
一方、食べたことすら記憶から欠落しているのが認知症です。
また認知症の場合、今まではきれい好きだったのに、掃除ができなくなったり、身だしなみに気を使わなくなったという変化や、些細なことで怒りっぽくなったなど、人柄が変わってしまう傾向があります。
このようなことは誰でも少なからずあることですが、明らかに以前と違う場合は認知症の前兆の可能性があります。
この変化は、本人はなかなか気づかないものかもしれません。
もしご家族の方がこのような兆候が出ていたら、優しく見守ってあげるとともに心配であれば早めに病院を受診するのが良いでしょう。
物忘れを予防するため、できることは?
年齢が進むにつれて脳細胞が減少してくるのは、正常な脳の営みです。
しかし、脳の細胞が減っても、頭を使うことで脳は発達するということがわかってきています。
今から加齢による物忘れを防ぐためできることを始めていきましょう。
有酸素運動
運動で脳の血流量が増すと、記憶を司る海馬が鍛えられ、能力アップに効果があるといわれています。
スロージョギングで1時間が理想的ですが、はや歩きなど日常の中でできることから、有酸素運動を取り入れることが長く続けられるコツです。
何か「解決したい題材を決めて歩く」というのも効果的です。じっとして考えるより、歩くことで体が活性化すると、脳も活性化し、変化する景色を感じながら五感の刺激を受けることでさらに脳に刺激が伝わり、問題解決の答えが出てきやすくなると言われています。
脳に刺激を与える
パズルなどは脳を鍛えると言われています。新しい趣味や習い事など、今までやったことのないことを始めてみるのも良いでしょう。そして人と話をしましょう。人との会話も脳を活性化します。
料理をする
ご存知の方も多いと思いますが、料理は脳の活性化、認知症予防にとても効果があるといわれています。
料理をするときは、どのような食材を選び、どのような手順で効率よく調理するかなど、頭をフル回転させ、さらに
- 視覚
- 臭覚
- 聴覚
- 味覚
- 触覚
の五感をフルに使います。
料理は買い出しから盛り付けまで、右脳も左脳も頭を多方面に使うので、脳の活性化にとても効果的です。
感動や達成感を味わう
旅行に行って、素晴らしい景色を見る、本や映画で感動を味わう、何か目標を立てて、やり遂げた達成感を味わうなど、脳にワクワクするような刺激を与えて感情が揺さぶられることで、脳の活性化につながります。
脳に効く栄養素を摂る
<ブドウ糖>
脳が疲れると甘いものを食べたくなります。この甘いものにはショ糖、果糖、ブドウ糖があります。
中でも脳に必要なものはブドウ糖です。
ブドウ糖は体内に入ると、すぐに溶けてエネルギーに変換されます。
ブドウ糖を摂るにはバナナが良いでしょう。
バナナは天然由来のブドウ糖をふんだんに含んでおり、パンやご飯に比べて低カロリーです。
<不飽和脂肪酸>
脳を働かせるには脂質も必要です。
マグロ、さんま、イワシには不飽和脂肪酸がたくさん含まれています。
不飽和脂肪酸は血管を錆びさせない働きがあり、脂質がサラサラのまま全身にいきわたります。
<大豆製品>
大豆は「ブレインフーズ」といわれていて、脳を活性させる食べ物です。大豆に含まれる成分が、脳内の神経伝達物質の分泌を高めてくれる作用を発揮します。
<アミノ酸>
アミノ酸は、動物性食品であればどの食品にも入っています。
アミノ酸=タンパク質とも言えます。
人間の体は
- 60%が水
- 20%がタンパク質
- 脂質が15%
- 糖質が5%
で成り立っています。
- 毛髪
- 骨
- 血液
- 臓器
はタンパク質がなければ成り立ちません。
またタンパク質は免疫力を強化する作用や抗ウイルス作用もあります。
さらに肝臓の働きを強化する作用もあります。
<抗酸化物質>
肝臓でブドウ糖が分解されるとき、一緒に活性酸素も生じてしまいます。
人の体は毎日細胞分裂を繰り返し、古い細胞は死んでいきます。
このとき活性酸素の量が多くなると、この再生力が弱まり、老化が進んでしまいます。
これに対抗するのが抗酸化物質の働きです。
抗酸化物質が含まれる栄養素として
- ビタミンE
- ビタミンC
- βカロチン
- リコピン
などがあります。
これらの栄養素は、野菜や果物に含まれているので、積極的に食べましょう。
まとめ
最近は高齢化社会が進んだこともあり「認知症」が身近なものとなってきています。
それゆえ、物忘れが起きると自分は認知症になってしまったのだろうか?と不安を感じることもあるかもしれません。
しかし、物忘れ=認知症ではありません。
加齢とともに起きる物忘れは、自然な現象ではあり、過度な心配は必要ありません。
そうは言っても、頻繁に物忘れをするようになると、日常生活に不便を感じることにもつながります。
普段の生活から、
- 適度な有酸素運動を心がける
- 人との会話を楽しむ
- 趣味や勉強などの新しいことに挑戦する
- 家族のために美味しい料理を作る
- しっかり睡眠を取る
というような、メリハリのある生き生きとした生活をすることにより、脳も活性化し、物忘れ予防に効果が発揮されるのではないでしょうか。
また、家族で認知症の人がいる場合は、脳の病気なので責めたりせずに、温かく相手を尊重するように接しましょう。
また本人が気づきにくいこともあるのが認知症です。
家族の様子がおかしい場合は、早めに病院を受診しましょう。